事件番号:JP2010-0003

                 裁 定

申立人:
    名称: 株式会社 Sakae design & Co.
    住所: 〒107-0062東京都港区南青山3丁目4-18 コスモスマーサ103

登録者:
    名称:株式会社 保険企画
    住所:〒211-0015 神奈川県川崎市中原区北谷町47-1

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPド
メイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書、提出された証拠
および答弁書に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

  ドメイン名「WORKINGHOLIDAY-NET.JP」の登録を申立人に移転せよ

2 ドメイン名

  紛争に係るドメイン名は「WORKINGHOLIDAY-NET.JP」である。

3 手続の経緯

  別記のとおりである。

4 当事者の主張

a 申立人

(1)申立人とその関連会社について

  申立人は、オーストラリア法人 ワーキングホリデー ネットワーク コミュニケ
ーションズからワーキングホリデーに係る情報サイト及びワーキングホリデー保
険サイトの運営を引き継いで2007年3月に設立されたインターネットメディ
ア事業を行う株式会社である。

(2)申立人の名称、商標等について

  申立人は、インターネット上でワーキングホリデーに関する事業を展開するにあ
 たり、1999年6月1日に「workingholiday-net.com」なるドメイン名を登録し、
 また「ワーホリネット」という情報サイトを開設した。
  申立人は、「ワーホリネット」においてはワーキングホリデー渡航者が必要とす
 る各種の情報を無料で公開し、またワーキングホリデー専用の旅行傷害保険も企画
 し、渡航者に紹介し、そのためのサイトとして2000年11月1日に「ワーホリ
 @保険」を開設した。
  また申立人は2000年1月からワーキングホリデーに関連する情報を提供す
 るメールマガジンを配信し、インターネットによる双方向サービスも提供している。
  申立人は上記の各種サービスをドメイン名「workingholiday-net.com」のウエブ
 サイトにおいて多数のワーキングホリデー需要者に提供してきた
  また申立人は次の商標を日本特許庁に対し出願し登録している。
  (1) 商標:ワーホリ@保険
    出願:2002年12月16日 商願2002-110979
    登録:2003年 8月29日 登録第4704182号
    指定役務:36類-生命保険契約の媒介、生命保険契約の引受け、ほか
  (2) 商標:ワーホリネット
    出願:2001年 3月12日 商願2001-027869
    登録:2003年 9月12日 登録第4708349号
    指定役務:39類-旅行に関する情報の提供、ほか
         42類-宿泊施設の契約の媒介又は取次ぎ、ほか

(3)申立の理由

 ⅰ)本件ドメイン名と申立人表示の同一もしくは類似について

  本件ドメイン名「WORKINGHOLIDAY-NET.JP」において、主たる識別力を有
 するのは「WORKINGHOLIDAY-NET」であり、これは申立人のドメイン名
 「WORKINGHOLIDAY-NET.COM」と要部を同じくし、全体として類似する。
  また「ワーキングホリデー」は「ワーホリ」と呼ばれることから、本件ドメイン
 名の要部「WORKINGHOLIDAY-NET」(ワーキングホリデーネット)は「ワーホ
 リネット」と略称されることもあり、その場合には申立人の登録第4708349
 号商標と称呼が同一になる可能性がある。

 ⅱ)登録者が対象ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していないと考える
  理由

  申立人の所有する商標権及びドメイン名が周知性を獲得していることは予想さ
 れるところであり、このドメイン名に対する顧客の心理的影響を利用する目的で登
 録者は本件ドメイン名を取得した疑いがあり、また本件ドメイン名が登録された時
 点で申立人のワーキングホリデー保険のサイトがインターネット検索順位で上位
 に表わされていたことから、登録者が同じワーキングホリデー保険のサイトに利用
 する目的で本件ドメイン名を偶然登録したとはいい難く、また登録者はこれを登録
 後には意図的に利用してきたと判断せざるをえない。
  さらに申立人が2010年2月15日に内容証明便を登録者に送付した後も本
 件ドメイン名の使用を中止せず、徹底してSEM対策を行い、申立人のドメイン名
 と混同を引き起こしかねない状況を意図的に作っていると思われる。
  従って登録者は本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していないこ
 とを充分に認識しているものと想定される。

 ⅲ)本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されていると考える理由

  現在の登録者による本件ドメイン名の使用状況から見て、登録者は周知性を獲得
 した申立人のドメイン名などについて誤認混同を生ぜしめることを意図し、利用者
 が登録者のサイトに誤ってアクセスした場合に、利用者の当初の意に反して登録者
 のワーキングホリデー保険に興味を持つ状況におかれることを知りながら、あえて
 これを容認している可能性ありと思われる。
  また本件ドメイン名は専らワーキングホリデー保険のみのサイトとして利用さ
 れているので、利用者が申立人のサイトと誤認して登録者のサイトにアクセスした
 場合、そこにワーキングホリデー情報が無くなったと勘違いさせてしまうおそれが
 ある。
  従って、登録者による本件ドメイン名の使用は、消費者の誤認を惹く不正競争と
 判断せざるを得ず、また申立人の商標その他の表示の価値を毀損する意図を有し、
 不正の目的で登録又は使用されていると考えられる。

(4)求める救済措置
  申立人は、選任されたパネルが、本件ドメイン名の登録について、移転の裁定を
 下すことを求める。

b 登録者
(1)登録者による答弁の理由

 ⅰ)登録者のドメイン名と申立人の表示の同一もしくは類似について

  登録者のドメイン名「workingholiday-net.jp」と申立人のドメイン名
 「workingholiday-net.com」において「workingholiday-net」の部分が同一である
 ことは認める。
  申立人の商標は「ワーホリ@保険」と「ワーホリネット」であり、本件ドメイン
 名はこれに相応する文字は含まれていない。また申立人は「workingholiday-net」
 が「ワーホリネット」と称呼されることがあると主張するが、本件ドメイン名が申
 立人の商標と同一または混同を引き起こすほどに類似しているとは言えない。
  なおワーキングホリデー保険サイトについては、実際に「ワーキングホリデー保
 険」という名称の保険商品を販売している保険会社は存在せず、海外旅行保険や留
 学生保険をワーキングホリデー保険として販売しているにすぎない。ワーキングホ
 リデー保険のサイトとして申立人の商標「ワーホリ@保険」が知られていた可能性
 もあるが、その他多くのサイトがワーキングホリデー保険のサイトとして周知され
 ていた可能性がある。
  また登録者が扱う海外旅行保険の代理店と、申立人が取引している保険代理店と
 は相違し、そのため保険商品の補償内容も保険料も相違するので、本件ドメイン名
 を使用することが申立人のドメイン名と同一または混同を引き起こすほどに類似
 しているとは言えない。

 ⅱ)登録者が対象ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していないと考える
  理由について

  登録者は申立人から2010年2月24日に電子メールによる通知を受ける前
 の2009年10月17日よりワーキングホリデー制度を利用する方向けに海外
 旅行保険を提供するという正当な目的のために本件ドメイン名を登録し使用して
 おり、また内容証明便を受取った後でも継続して本件ドメイン名を使用しているの
 は、正当な目的をもって登録し使用しているからである。またSEM対策も、申立
 人のドメイン名と混同を引き起こすために意図的になしたものではなく、登録者の
 サイトへの訪問者を増やし、売上を得るためである。
  申立人が述べているように2010年2月頃から「ワーキングホリデー保険」の
 キーワードでインターネットを検索した場合に上位に表示されるようになったと
 いうことは、本件ドメイン名が一般に認識され、利用者に支持されている証拠であ
 る。

 ⅲ)本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されていると考える理由について

  本件ドメイン名は、ワーキングホリデー制度を利用する人向けに海外旅行保険を
 インターネットで販売するという正当な目的で登録または使用されている。本件ド
 メイン名はワーキングホリデーの英文「workingholiday」とインターネットの英文
 「Internet」の略称である「ネット」の英文「net」を使ったドメイン名を採択した
 だけであり、申立人が主張するような事実はない。
  申立人の主たる事業はワーキングホリデー情報の提供であり、申立人が主張する
 ように、登録者のサイトにはワーキングホリデーに関する情報は一切記載されてい
 ない。そのため、ワーキングホリデー情報を確かめようと、登録者のサイトを訪問
 した場合でも、誤ったサイトを訪問してしまったと理解する可能性が高く、混乱す
 ることなく申立人のサイトを検索することが考えられる。

5 争点及び事実認定

 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審
問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、なら
びに条理にしたがって、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。

 Ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
  示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 Ⅱ)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこ
  と
 Ⅲ)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 申立人から提出された主張及び証拠ならびに登録者が提出した答弁書に基づき、次
のとおりの事実を認定した。

(1)登録者のドメイン名と、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
  示との類似性について

  ⅰ)申立人が権利または正当な利益を有する商標について

   申立人は39類および42類に属する役務を指定役務とする登録第47083
  49号商標「ワーホリネット」を所有していると主張する。
   即ち、申立人が提出した証拠(甲6の3、4)によると、登録第4708349
  号商標は当初オーストラリア法人、ワーキングホリデー ネットワーク コミュニ
  ケーションズの名義により出願、登録されたものが、平成21年に申立人に移転さ
  れたものである。従って、申立人は登録第4708349号商標につき権利を有す
  ると判断する。
   他方、申立人は36類に属する役務を指定役務とする登録第4704182号商
  標「ワーホリ@保険」も所有すると主張するが、申立人が提出した証拠(甲6の1、
  2)によると、第4704182号商標登録は当初オーストラリア法人、ワーキン
  グホリデー ネットワーク コミュニケーションズの名義により出願、登録された
  ものが、平成20年に移転されているが、その譲受人、即ち現在の登録名義人は「古
  坊 栄」であり、申立人ではない。また申立人が登録第4704182号商標につ
  いて登録名義人から使用許諾を受けているのかどうかについても、申立人が証拠と
  して提出した商標登録原簿写(甲6の2)にはその旨の登録事項は見当たらず、ま
  た申立人もこの点については一切触れていない。従って、申立人が登録第4704
  182号商標につき何らかの権利を有すると判断することはできない。
   なお申立人の主張によると、申立人は上記商標「ワーホリネット」および「ワー
  ホリ@保険」をウエブサイトの名称として使用している。

  ⅱ)申立人が権利または正当な利益を有するその他の表示について

   他方、申立人は、2007年3月に設立されたインターネットメディア事業を行
  う株式会社であり、それに先立って存在したオーストラリア法人 ワーキングホリ
  デー ネットワーク コミュニケーションズからワーキングホリデーに係る情報サ
  イト及びワーキングホリデー保険サイトの運営を引き継いだ。
   申立人は、インターネット上でワーキングホリデーに関する事業を展開するにあ
  たり、1999年6月1日に「workingholiday-net.com」なるドメイン名を登録し
  た(甲2の1)。
   その後、そのウエブサイトによりワーキングホリデー渡航者が必要とする各種の
  情報を無料で公開し、また「ワーホリネット」という情報サイトを開設し、さらに
  ワーキングホリデー専用の旅行傷害保険を渡航者に紹介するためのサイトとして
  2000年11月1日に「ワーホリ@保険」を開設した。
   また申立人は2000年1月からワーキングホリデーに関連する情報を提供す
  るメールマガジンを配信し、インターネットによる双方向サービスも提供している。
   以上からすれば、ドメイン名「workingholiday-net.com」が申立人により継続使
  用されていることは明らかである。
   なお、以上は申立人の主張に基づくものであるが、この主張は2007年に設立
  された申立人会社が1999年にドメイン名「workingholiday-net.com」を登録し、
  使用してきたということと矛盾し、申立書にはこの点について説明がない。
   しかし提出された証拠(甲2の1)によると、申立人のドメイン名の現在の登録
  者は本件申立人と同一人であり、また申立人が、設立に先立って存在したオースト
  ラリア法人 ワーキングホリデー ネットワーク コミュニケーションズからワーキ
  ングホリデーに係る情報サイト及びワーキングホリデー保険サイトの運営を引き
  継いだとの申立人の主張ならびに2件の商標登録が同じオーストラリア法人から
  特定承継により移転されている事実から、申立人はこれらの登録ならびに使用に係
  る業務をオーストラリア法人 ワーキングホリデー ネットワーク コミュニケーシ
  ョンズから正当に引き継いだものと判断する。
   そこで、申立人がそのドメイン名「workingholiday-net.com」について如何なる
  権利または正当な利益を有するかについて検討する。
   JPドメイン名の基本的性格は、先登録の順に株式会社日本レジストリサービス
  と契約を締結することにより登録を得ることができるというところにあるが、その
  登録に際しては、たとえば商標の登録の要件とされる自他商品または役務を識別す
  る能力の有無などは一切問われないし、またそのドメイン名の使用目的も問われな
  い。従って、ドメイン名の要部と目される部分が、そのドメイン名が使用される目
  的によっては自他商品または役務を識別する能力を明らかに欠き、その部分につき
  特定人に独占的な権利を認めることが商取引などの見地からは望ましくない場合
  であっても、そのドメイン名を登録し使用することは可能である。
   申立人のドメイン名についてみると、まず、申立人も自ら認めるように、「ワー
  キングホリデー」(working holiday)なる語は二国間の協定に基いて青年が相手国
  の異なる文化の中で休暇を楽しみながら、滞在資金を補うために一定の就労を認め
  る査証のことであり、わが国でも古く1980年にオーストラリアとの間でこれの
  協定を締結し、この制度を支援し、促進する公的機関として社団法人日本ワーキン
  グ・ホリデー協会が設けられている(甲1-1、甲7)。この語は辞書にも収録さ
  れており、従ってワーキングホリデーに関連する商品や役務について「ワーキング
  ホリデー」や「workingholiday」の語は普通名詞であり、すくなくともワーキング
  ホリデーに関連する商品や役務についてこの語は自他商品や自他役務を識別する
  機能を欠く語であるといえる。
   さらに、申立人のドメイン名中にみられる「net」は、ネットワークもしくはイ
  ンターネットの略称として広く使用されている「ネット」の語に相応する英文であ
  り、この語にもインターネットに関連する商品や役務について自他商品/役務を識
  別する機能があるとは認められない。また申立人のドメイン名の末尾の「com」は
  分野別TLDに過ぎないから、これが自他商品/役務を識別する機能を欠く語であ
  ることは申すまでもない。
   してみると、申立人のドメイン名「workingholiday-net.com」は、これを個々の
  構成語に分断してみる場合には、いずれもワーキングホリデーに関連し、更にイン
  ターネットに関連する商品や役務について、自他商品/役務を識別する機能を欠く
  と判断することが可能である。
   しかしながら「workingholiday」の語と「net」の語とをハイフンで結んだ
  「workingholiday-net」の合成語についてみれば、これを直ちに既成語であると判
  断しなければならないとする理由を見出すことは困難であり、またワーキングホリ
  デーに関連する商品や役務をインターネットにより提供することを意図する者が、
  その目的のためのドメイン名を開設するにあたり、この「workingholiday-net」の
  合成語を使用しなければならないという必然的な理由があるとは思われない。
   さらに提出された証拠によると、申立人のドメイン名「workingholiday-net.com」
  が積極的に使用されていることが認められ、他方、業界においては他者により
  「workingholiday-net」の語は使用されていないことが窺える(甲8、9、10ほ
  か)。
   従って、申立人のドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ
  の他表示の一つであると判断する。

  ⅲ)登録者のドメイン名と、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
   示との類似性について

   登録者のドメイン名は「workingholiday-net.jp」であり、2009年10月17
  日に登録されたものである。(甲16の1)
   そこで、まず申立人のドメイン名「workingholiday-net.com」と本件ドメイン名
  「workingholiday-net.jp」とを比較すると、末尾のトップレベルの「com」は分野
  別TLDであり、「jp」は日本を示す国コードに過ぎないから、双方のドメイン名に
  おいて識別力を有するのは「workingholiday-net」の部分のみであり、この部分が
  両ドメイン名の要部であると認めることが可能である。従って、本件ドメイン名は
  申立人が正当な利益を有する表示の一つである申立人のドメイン名と要部が同一
  であるから、全体として類似であることは明らかといえる。
   なお登録者も答弁書において両ドメイン名の「workingholiday-net」の部分が同
  一であることを認めている。
   次に本件ドメイン名と申立人が権利を有する登録第4708349号商標「ワー
  ホリネット」との類否を検討する。申立人の主張によると「ワーホリ」とは「ワー
  キングホリデー」の略語として1999年以前から関係者間で慣用され、国語辞典
  にも記載されているとのことであるが(甲1の1)、それはともかくとして、「ワー
  ホリネット」は全体としてまとまった一つの造語であると認識されるのが相当であ
  り、これが直ちに本件ドメイン名「workingholiday-net.jp」と全体としての外観、
  称呼もしくは観念において類似すると判断することが妥当かどうか、きわめて疑問
  であり、「ワーホリネット」は本件ドメイン名「workingholiday-net.jp」と全体と
  して混同の虞が無く非類似であると判断する。
   なお申立人が指摘するもう一つの登録第4704182号商標「ワーホリ@保
  険」は、上記のように登録名義が申立人ではなく、この商標について申立人が何ら
  かの権利を有するとは認められないので、この商標と本件ドメイン名との類否判断
  は省略する。

(2)登録者がドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有しているか否か

  登録者がドメイン名の登録について何等かの権利又は正当な利益を有している
 か否かの事実を申立人の立証にまつことは酷であり、登録者の答弁書にこれについ
 ての説明を期待するところであるが、登録者が提出した答弁書によるも、登録者が
 本件ドメイン名を登録したことが如何なる権利に基くものか、また如何なる正当な
 利益を有して登録したのか、説明するところがない。
  また本件ドメイン名を所有する登録者は、その氏名もしくは商号が本件ドメイン
 名と全く関連を有しておらず、登録者が提出した答弁書によるかぎり、登録者は本
 件ドメイン名と一致する商標登録を所有しておらず、さらに本件ドメイン名もしく
 はそれに一致する登録商標について他者から使用許諾を受けていることもない。即
 ち、登録者が本件ドメイン名と同一もしくは類似する商標その他の表示につき何ら
 かの権利又は正当な利益を所有しているかどうか、答弁書によるも明らかではない。
  他方本件ドメイン名の登録以前から、本件ドメイン名に類似する申立人のドメイ
 ン名が、申立人によってワーキングホリデーに関連する情報の提供や、旅行傷害保
 険を渡航者に紹介するためのサイトとして採択され使用されていることを考慮す
 ると、登録者が本件ドメイン名を登録する際に既に申立人のドメイン名の存在を承
 知していたと充分に推認することができる。
  してみれば、登録者が本件ドメイン名について、権利又は正当な利益を有してい
 ると認めることはできない。

(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているか否か

  申立人は、現在の登録者による本件ドメイン名の使用状況から見て、登録者は周
 知性を獲得した申立人のドメイン名などについて誤認混同を生ぜしめることを意
 図し、利用者が登録者のサイトに誤ってアクセスした場合に、利用者の当初の意に
 反して登録者のワーキングホリデー保険に興味を持つ状況におかれることを知り
 ながら、あえてこれを容認している可能性があり、また本件ドメイン名は専らワー
 キングホリデー保険のみのサイトとして利用されているので、利用者が申立人のサ
 イトと誤認して登録者のサイトにアクセスした場合、そこにワーキングホリデー情
 報が無くなったと勘違いさせてしまうおそれがあるから、登録者による本件ドメイ
 ン名の使用は、消費者の誤認を惹く不正競争と判断せざるを得ず、また申立人の商
 標その他表示の価値を毀損する意図を有し、不正の目的で登録又は使用されている
 と考えられると主張する。
  申立人のドメイン名の使用開始は2000年に遡り、これが本件ドメイン名が登
 録された2009年10月までに積極的に使用されていることが認められる(甲8、
 9、10ほか)。しかも申立人のドメイン名はワーキングホリデー制度を利用する
 人を対象とする海外旅行保険をインターネットで販売するという目的でも積極的
 に使用されているが(甲13)、申立人のドメイン名に類似する本件ドメイン名も
 登録者によって、代理店こそ相違するとしても、全く同じワーキングホリデー制度
 を利用する人を対象とする海外旅行保険に関して使用されている(甲16の2)。
  さらに、申立人が本件申立書を提出するに先立って登録者に内容証明便及び
 e-mail 便にて対処を申し入れたところ、登録者は2010年2月24日付e-mail
 による回答において『「workingholiday-net.jp」」については紛争処理機関に申し立
 てていただき、移転裁定が出た場合には速やかに移転手続を行う』旨を述べており
 (甲17の3)、その回答には、登録者が本件ドメイン名の正当な権利者であるこ
 とを強調してはいない。
  従って、以上の状況から、本件ドメイン名は不正な目的をもって登録され、また
 は使用されたものと判断せざるをえない。

6 結論

  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
 「workingholiday-net.jp」が申立人の商標その他の表示と混同を引き起こすほど類
 似し、登録者が、登録されたドメイン名「workingholiday-net.jp」に関する権利又
 は正当な利益を有していると判断することはできず、かつ、登録者のドメイン名が
 不正の目的で登録され、または使用されているものと判断する。
  よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「workingholiday-net.jp」の登録を
 申立人に移転するものとし,主文のとおり裁定する。

   2010年5月12日
     日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                 清 水 徹 男
                 単独パネリスト


別記 手続の経緯

(1)申立書受領日
   電子メール 2010年3月19日 書面 2010年3月23日
(2)手数料受領日
   2010年3月19日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2010年3月23日 JPRSへ照会
   2010年3月23日 JPRSから登録情報の確認
   確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2010年3月2
  3日に、申立書が処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始日 2010年3月25日
   手続開始日の通知 2010年3月25日
   申立人らへ通知(電子メール、ファクシミリおよび郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
   1) 2010年3月25日(電子メール、ファクシミリおよび郵送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2010年4月22日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、登録者の2010年4月16日付答弁書を2010年4月19日
  に受領したが、代表者の記名と所要部数の写し、並びに代表資格を証する書面の
  追完を求めることが相当であると判断して、登録者に対しその旨の補正を求め、
  同日付の補正答弁書および添付書面を2010年4月21日に受領した。
(8)パネリストの選任 2010年4月28日
   申立人らは1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2010年5月6日
   パネリスト:清水 徹男
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2010年4月28日 JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
              申立人および登録者へ通知
              (電子メール、ファクシミリおよび郵送)
   裁定予定日:2010年5月24日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2010年4月28日(電子メールおよび郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2010年5月12日 審理終了、裁定。